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20:「僕」男の子。(4)

2016年05月15日 00:48

このまま会社を休み続けられるわけもなく
私は重い足を引きずるように会社へと向かった。
デスクに荷物を置き
社長室へと向かっていた時であった。
あの和泉とバッタリ鉢合わせになった。



一瞬、体が固まったものの気を取り直す。
今までやってきた事だ。
同じようにすればいい。
いない。
いないものだと思えばいい。





     --------  おい、ちょっと待って!



何も聞こえない。

何も聞こえない。

何も聞こえないんだ。

私は彼の事を無視し階段を駆け上がった。



「おいっ! 聞いているのかって。 話があるんだよっ!」



和泉が追いかけてくる姿が見える。




「おいっ! ちょっと待て! 待てよっ!」


いない。
いないのだ。
誰もいない。
何度も自分の心に言い聞かせながら
階段を駆け上がる。



「ごめんっ!」


えっ?


「ごめんなっ!」


私の足が一瞬、止まった。


「そんなつもりじゃなかったんだよ! 傷つけたのなら謝る!」


息を切らし追いかけてきた和泉が
私の目の前に立っていた。


20:「僕」男の子。(3)

2016年05月14日 22:57

トイレの個室で両手で自分の口を塞ぎ
私は声を噛み殺し泣いた。
悔しくて。
哀しくて。
そして惨めで。
涙が止まらなかった。


涙は堪えたものの
林チーフのの元へ戻った時には
嗚咽を止める事は出来なかった。



「こーちゃん・・どうしたの? 遠慮しないで話してご覧、誰にも言わないから。」


私の泣き顔を見た林チーフは
仕事そっちのけで私の事を心配してくれた。


この人になら話せるかも知れない。
でも何から伝えたらいいのか
どうやって気持ちを伝えたらいいのか分からない。
言葉が見つからない。
椅子に似顔絵が貼られていて迷惑している、って
言えばいいのかな?
えっ、そんな下らない事で泣いちゃうの? 社会人なのに?
そう思われるかも知れない。
いやそうだ。
きっとバカげた下らない事、そう思われる。
言えない。
やっぱり私には言えない。


いつも苦しい時。
誰かに助けて欲しいって思う時
手を差し伸べてくれる人がいても
私はその手に縋る術を知らない。
受け止めてもらえる事より
勇気を持って伸ばした手を振り払われる姿しか想像が出来ない。
その時、傷付くのは自分だ。
だから私はこう答える。
今でもそう。
ずっとそう。
きっと死ぬまで変わらない。






           ―――  大丈夫です。





そう答えた私が翌日、会社に行く事はなかった。





20:「僕」男の子。(2)

2016年05月14日 22:56

それからというもの
この和泉の嫌がらせは毎日のように続いた。
席をはずしデスクに戻ると
彼の手によって描かれた私の似顔絵がセロハンテープ貼られている。


今なら分かる。
小学生が気になる相手の気を引くため
ちょっかいを出すそれと同じ。
和泉に悪意なんてもんはない。
だが学生時代
男性に馬鹿にされ笑われてきた私には
これが悪戯なんかではなく
悪意のある行為としか受け止められなかった。


初めのうちは無視していたが
次第に耐えられなくなっていった。
椅子に張り付けられた紙を剥ぎ取ると
和泉に向かって大声で叫んだ。





         ――― やめてよっ!!



だがコイツには伝わらない。
それどころか面白がって私の真似を続ける。


「やめてよーーっ!!」

「本当に、やめて下さい!!」

「本当にぃぃぃ、やめて下さぁぁぁぁぃーーーーーーっ!!」


大袈裟なオウム返し。
こんな日々が毎日のように続くようになり
耐えられなくなっていった。



20:「僕」男の子。(1)

2016年05月14日 22:55




   ―――  あーっ! もおぉーっ、 私の似顔絵貼ってあるぅぅーっ!!




背後から聞こえる甲高い大きな声。
そこには同期社員である営業部の和泉の姿があった。
ニタニタしながら私を見ている彼を目にし
犯人が誰なのか分かった。





私の男嫌いは社会人となってからも変わる事はなかった。
いや、嫌いという表現より怖いという方が正しい。
社内で男性に声をかけれる事も多々あったが
どう接していいのか分からない。
その為、素っ気なく答えると
まるで逃げるかのように
その場を後にし接する事がないように努めていた。




そんな私の姿を頻繁に目にしていた同僚達は
こーちゃんってさ、男嫌いなんだね。変っているよね。
なんて言っていたけど大嫌いだった。


故郷を離れ
私の過去を知る人はいない。
それなのに、また振り出しに戻らされたような気がする。
ウンザリだ!
だから男って大嫌い!
私は怒りを露わにし紙を引き千切るように剥ぎ取ると
グシャグシャにしてゴミ箱の中に投げつけた。



19:夜空に瞬く星達よ(17)

2016年05月14日 22:54

何故なんだろう。
やっぱり無視出来ない。
こんなに苛立つのに、無視出来ないのだ。
康子に付き添って鹿島さんの元へ行こうか迷ったが
それはしなかった。
鹿島さんのあの性格だ。


     

      お前は一人で謝りにもこれないのか!




私に付き添ってもらって来た事に逆上し
更に康子に激怒するのが目に見えている。
振り切るように去る康子の背に向かい私は声を投げかけた。




      -----    康子ちゃん、大丈夫だよ。
        何かあった時には、その時には一緒に頼んであげる。
       だから頑張って一人で行ってきて、私、ここで見てるから!




振り返る事のない、康子の背を見つめながら
私はその場に立ち止まり
見守る思いで二人の姿を見つめていた。



しばらくして足早に戻ってくる康子の顔は緊張で強張っていたのが
人差し指と親指で小さな輪っかをつくると
私に見えるように差し出した。
それは「OK」というサイン。
嬉しかった!
自分の事の様に嬉しくて
私と康子は子供のように抱き合っては無邪気にはしゃいだ。




その日を境に恐れられていた鹿島さん
そして天敵であった康子や同僚も交えランチにも足を運ぶようになった。
毎日とても充実した日々を過ごしていた。



だがその会社を辞めたいと思う出来事が起きる。
社長に頼まれた仕事を済ませ
自分のデスクに戻ると椅子の背後に白い紙がセロハンテープで貼られていた。
それはマジックで描かれた私の似顔絵であった。




19:夜空に瞬く星達よ(16)

2016年05月14日 22:53



「今まで、ずっとやってくれてたのに何でダメなの?
私が鹿島さんに嫌われているって事、知っているでしょ?!」


「知っているよ、だけど鹿島さんは話が分からない人間じゃない。
今までの仕事の頼み方が間違ってただけなんだよ。
それにさ、康子ちゃんは、まず鹿島さんに謝るべきなんじゃない?
この前は生意気な口を叩いて申し訳ありませんでした、って頭を下げる。
仕事の話は、それからでしょ。」


「私が行くと話すら聞いてくれないんから頼んでるんじゃない!
いいじゃん、行ってくれたって!!」


「そうやって、これから先もずっと私に頼み続けるの? 
それで康子ちゃんは本当にいいの?
それってさ、康子ちゃんの為にもならないんだよ。だから断っているの。
私はもう頼まれても行かない事に決めたから何度、頼まれても行かないよ。」


「ケチッ!! だったら、もういいよ!!!!
自分で何とかする。 アンタには二度と頼まないからっ!!」



目の前から足早に去ると
康子は手にしていたファイルをデスクの上に叩きつけた。
まるで私への当てつけの様に。



私が間違っているの?
皆の事を想ってるからこそ言っているのに。
皆、無責任だ。
嫌な事は他人に押し付けようとして
自分でする努力をしない。
いいよ、もう。
嫌いならそれでいい。
皆、勝手にすればいいんだ。
私は間違ってない。
私は間違ってないんだから。




何度も自分の心に言い聞かせながら社長室へと向う私の横を
康子は足早に横切ると
鹿島さんの元へと向かって行った。



19:夜空に瞬く星達よ(15)

2016年05月14日 22:51

鹿島さんという人間は、頑固な一面はあるものの
人の話が分からないような人間ではないという事を
仕事を通じて感じるようになっていった。
皆、抱える仕事は一つだけではない。
彼女が抱えている仕事の事まで配慮した上で
事情を説明し頭を下げれば、快く請け負ってくれた。



        今の若い子は礼儀知らずだ!!

    

        頭冷やして出直して来い!!



フロアーに響き渡る程の大声で
鹿島さんが発していた言葉の真意を何となく理解出来たような気がした。
結局、最後に辿りつく先は
人と人との心であるような気がする。
たった一言。
相手に対し配慮する気配りという言葉があれば
鹿島さんに怒鳴られる人間は一人もいなかっただろう。



この間、同僚に頼まれる度に
鹿島さんの元へ顔を出していた私だったが
これを機に誰に頼まれても断るようにした。
だが、そんな私に対し不満を口に出す人間が
ぽつぽつと出始める事となる。
その中の一人
鹿島さんと何度も大喧嘩をしていた康子であった。




23:涙のジョージ(15)

2016年05月14日 22:39

涙を拭う私の上で男になった彼は囁く。






挿れていい?





その艶めかしい表情や眼差しが薫に見えた。




頷く私はそれでも心のどこかで思ってた。
やめてくれるかもしれない、って。
きっと彼なら私が嫌だという事を気付いてくれている、って
自分勝手な妄想を抱き縋ろうとしていた。
結局、彼はやめなかった。
時が経過するごとに感情は高まり
哀しみは増すばかり。
鏡に映し出された
ちっぽけな自分の姿にまた涙が零れてくる。
涙を拭う私の手を冷たく振りほどき
背を向けた彼が呟いた。






これで満足?






突き放すような冷たい言葉に
また涙が溢れてくる。






好きだった。
好きだったんだよ。
ずっと不安だった。
もっと好きになって傷付くんじゃないかって怖かった。
お願い、振り向いて。
嘘でもいいから優しくしてほしい。
今日が最後だから
いつものように抱きしめてほしい。


白いシーツに涙が染み渡る中
何度も言葉にしようと思うのに伝えられない。
言葉にする勇気がない。
言えなかった。
拒まれて傷付くのが怖かったから。



いつも向かい合い寄り添うように時を過ごした私達であったが
この日、彼は背を向けたまま一度も振り返る事はなかった。
私達は一言も言葉を交わす事無く
背を向き合ったまま朝を迎えた。
終わりを感じた瞬間でもあった。



19:夜空に瞬く星達よ(14)

2016年05月14日 22:25

その日を境に業者発注や依頼がある度に
誰もが鹿島さん直々ではなく
私に頼むようになってゆく事となる。



社長室で雑務をこなす私は中々、企画部へは顔を出さない。
同期社員の中には
私が社長室から出てきてないかフロアーを探し回ったり
時には階段で私が訪れるのを待っている人間までではじめるようになっていった。



二階へ降りる度に


   
           良かったぁ、ずっとここで待ってたんだよ。




           こーちゃんの事、探し回ったんだからぁ。 だって全然、捕まらないし。



           鹿島さん、私が頼むと怒ってさ、怖いの。
     私、苦手だし、こーちゃん気に入られているから鹿島さんも怒らないでしょ。




こんな感じで足止めをくらう。
やがてそれは日課のようになっていった。



瑛子ちゃんの一件があってからというもの
鹿島さんには、声をかけてもらえるようになっていたが
この間、彼女の怒鳴り声を何度も耳にしていた事もあり
内心は機嫌を損ねでもしたら怒鳴られるのではないか気が気じゃなかった。
それ程、鹿島さんという人間は怖いという印象が強く残る女性であった。




人の怒鳴り声を耳にする度に
心臓の鼓動が速くなり、息苦しくなってくる。
酷い時は、吐き気と目眩に襲われる。
未だにそれは治らない。




          私だって怖い。



          私だって嫌。



          皆が嫌だって思う事は私も嫌なんだよ。




それでも同僚に頼まれると
何だか可哀想に思えてきて断る事が出来ず
内心はビクビク怯えながらも
笑顔で鹿島さんの元へと向かったものだった。



19:夜空に瞬く星達よ(13)

2016年05月14日 22:24

これも奇妙な縁なのだろうか。
いい事も、悪い事も
世の中、何があるか分からない。
私は女でありながらも
渦中の鹿島さんの愛娘である瑛子ちゃんに一目惚れされ
何とこの日、鹿島さんの手により
瑛子ちゃんが私に宛てた手紙を貰う事となったのだ。



「アンタがさぁ、女の子だって知ってガッカリしててさ
アンタに手紙を渡して欲しいって、瑛子に頼まれたのよ。
せっかくだからさ、娘の手紙読んでやってよ。」



目の前に差し出された封筒を私は受け取った。
中学の頃もだったが
私は高校生になってからも度々、下級生の女子から手紙をもらう事があった。
当時はそれが当たり前になっていて
何とも思わなくなっていたのだが
まさか社会人になってからも
女子高生から手紙を貰うなんて思ってもみなかった。



社会人になってからも女性に手紙を貰う私って一体何なのだろう・・




学生の頃は、嬉しいと感じる感情があったのに
この時ばかりは、複雑な心境になったのを今でも覚えている。
だが女性に手紙を貰ったのは、これが最後となった。



翌日、瑛子ちゃん宛てに書いた手紙を鹿島さんに手渡したものの
内心は、極力、鹿島さんとは関わりたくないと思っていた。
同期の皆は
鹿島さんと私が繋がりを持っている事に驚いていたが
これが縁となり新入社員の中で
唯一、鹿島さんと会話できる人間の一人となった。









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